禁煙と喫煙の間

タバコに関するあれこれ

「たばこ娘」再読

日本のタバコ文学のなかでも屈指の名作だと思っていた源氏鶏太の「たばこ娘」。これを読み直してみたが、どうもあまりおもしろくない。もともとそう深みのある話でもないので、読めば読むほどその底の浅さが露呈するのか、とも考えたが、そればかりではないようだ。どうやらこれば、私がタバコを吸うのをやめてしまったことからくる、タバコ熱の全般的な低下によるものらしい。

この作品のほうぼうにちりばめられている、タバコ礼賛の文句の数々。それが現在の私にはひどく間の抜けた、実感の乏しいものにみえてしまう。ちょっと引用してみよう。

……と思ったが、やめた。つまんなくて、書き写す気がしない。

読み直さなきゃよかったな、と思う。そうしていれば、「たばこ娘」は日本タバコ文学史上、屈指の名作としての地位をいまなお(私のなかで)保っていただろう。

ことほどさように、禁煙はタバコを吸う楽しみを奪うだけでなく、タバコにまつわるあれやこれやまで色あせたものにしてしまう。禁煙して人生が豊かになったと感じる人はおそらく少数派だ。なぜなら、人間は切り捨てることによっては幸せにはなれないのだから。