禁煙と喫煙の間

タバコに関するあれこれ

禁煙是非

タバコをやめてなにかいいことがあったか。私の場合、はっきりしているのは、そのぶんお金が浮いたことくらいだ。健康面では、たしかにやめた当初はなんとなく体も軽く、二、三歳は若返ったような気がしたが、文字どおり気がしただけで、じっさいはほとんどなにも変りはしない。少なくとも体感するかぎりではそうだ。とくにここがよくなったということもなければ、ここがわるくなったということもない。

それではタバコをやめて不都合なことはといえば、こっちははっきりしている。人生の楽しみがひとつ確実に減った。これはもうどうにもほかでは埋め合せのしようがない。私はパイプでの喫煙はたまにやっているが、パイプはタバコ(シガレット)の代用にはならない。おそらくシガーでも無理だろう。タバコの代りになるものはタバコしかない。

しかし長くタバコをやめた人間は、そうやすやすと喫煙の道には戻れないのである。なぜか知らないが、ひとにすすめられても、「いや、いいです、もうやめたんで」と答えてしまう。喉から手が出るほど欲しいというわけではないのだ。

まあいずれにせよ、私がふたたび喫煙者に戻ることはないだろう。体にいいことが実感できなくても、喫煙は確実に体をむしばむ。悪魔は足音もさせずに近づいてくるのだ。

しかし、天使もまた音もたてずにやってくるに違いない。同じようにみえる道でも、片方は地獄に、片方は天国に通じている。私はいま天国への道のほうを歩いているという自覚がある。この自覚が、喫煙者に戻ることをさまたげているのだと思う。